年頭にあたって

 年が改まって松もとれ、気がつけばもうはや節分、寄る年波か、時間の過ぎるのがどんどんはやくなる。

 以前、本欄の「ヴィスナー文庫の一周年」の記事で、義父が肺炎を起こして入院するのに付き添った顛末を紹介した。その義父が旧年十一月、天国に召された。心臓を悪くして倒れ九死に一生を得てから五年、その間二度のコロナ感染や大腿骨骨折を乗り切って、なお矍鑠としていたのだが。一人娘のパートナーの心中、察するに余りある。義父は微笑ましいほど仲良しの夫婦だった義母を十二年前に亡くしていて淋しさの隠せない晩年だったが、義父の亡くなった日は、はからずも義母の誕生日だった。そのことがパートナーにとって、多少なりとも慰めになっていれば、と思う。

 しばらく休んでいたお店を再開したのが、十一月も半ば頃、下旬の週末には毎年恒例のオープンナガヤで久しぶりに賑わった。今回のオープンナガヤは、先導役がグループごとに案内するのではなく、個人がめいめい自由にまわる形式だったので、皆さん時間を気にせずゆっくり長屋や本を見て下さった。その分、売上げも伸び、当店の一日の売上げ記録をあっさり更新したのだった(もっとも従来も今回も、記録と呼ぶこと自体おこがましい程度のものではあるのだが)。

 暮れは、喪中でお鏡や松飾りもせずおせち料理の準備や年賀状に追われることもなかったのに、七日行事などの仏事や知らせを聞いた義父の知人からのお悔やみへの対応、遺品の整理など、何かと慌ただしく、落ち着かない日々を過ごした。お正月は、暮れにできなかった掃除を済ませ、回収してもらえないゴミの山の中でひたすらごろごろしていて、仕事始めは少々遅くなった。

 新年の活動は、佗茶を大成した茶人千利休と日本近代文学を代表する歌人与謝野晶子をテーマに大阪堺の歴史・文化の魅力を発信する文化施設「さかい利晶の杜」で開催されたブックフェスタが皮切りだった。当店が参加した古本市のほか、和紙を使った本の修理講座や本の交換会、ビブリオバトルなど多彩な催しがあり、多くの人で賑わった。初めて行った「さかい利晶の杜」は、茶の湯の歴史を振り返る千利休茶の湯館、その作品と生きざまに触れた与謝野晶子記念館をはじめ、観光案内展示室や茶の湯体験ができる施設があり、売店には古墳グッズや堺の伝統産業である刃物のほか、本家小嶋の芥子餅、八百源の肉桂餅、松倉のお茶など、堺を代表する名産品がずらりと並んでいて、なかなかの充実ぶりであった。堺のメインストリート宿院通り沿いにあり、阪堺電車(チン電)の宿院電停から徒歩一分とアクセスもよく、近くには千利休屋敷跡、与謝野晶子生家跡などの観光スポットや、お香の老舗薫主堂、芥子餅の本家小嶋、創業三百二十年のおそば屋ちく満、うどんすきの美々卯、元徳元(1329)年創業と伝わるくるみ餅のかん袋といった、堺の錚々たる名店が目白押しという申し分のないロケーションで、少し脚を伸ばせば大山古墳や堺鉄砲鍛冶屋敷なども便利に行けて、堺の文化を十二分に満喫することができる。街歩きの拠点としてまさに絶好の場所である。

 正月十一日には、商売繁盛を祈願して今宮のえべっさん(十日戎)にお参りした。昔、父が商売をしていて、我が家では両親のお参りが毎年恒例だった。物心ついてからは二歳上の姉と二人でいつも留守番だったので、初めて見る風景に少々戸惑ったものの、福娘の皆さんの親切な誘導で、無事福笹を授かった。当店の売り上げ数日分の投資だった。そのおかげか、新年の出足はまずまず好調である。

 みなさん、今年もよろしくお願いいたします。

ヴィスナー文庫

時間がゆったりと流れる 公園のそばの癒し空間