ヴィスナー文庫の一周年

 いろいろあって「ここだけの話」をすっかりご無沙汰している間に、当店は密かに一周年を迎えていた。酷暑真っ盛りの7月23日のことである。なにか記念のイベントでもやろうかと、パートナーと話し合ったりしていたのだが、結局準備が間に合わず、500円以上お買い上げごとに百円均一商品を一点ずつプレゼントする、というささやかな企画にとどまった。それでも、いつになくお客さまが来てくださって、そこそこの売上げを残せたのは僥倖だった。日記を見ると、一年前のオープンの日はなんと十二名ものお客さまがあって、おまけに東京からお仕事で来阪中の書評家の杉江松恋氏にお立ち寄りいただいたりしたのだった。お客さまの数も、売上げも、この日がいまなお当店の最高記録である。

 さて、この間、「ここだけの話」をこれほど長期間サボるどんな「いろいろ」があったのかというと、ひとつには高齢の義父が肺炎を起こして入院する、という緊急事態があった。お世話になっている介護付き老人ホームのスタッフから連絡があったとき、パートナーはたまたま体調がすぐれず、急遽私が付き添うことになった。午後八時半頃病院に到着し、義父は搬入口からすぐの救急措置を施す場所とおぼしき病室に入って、私はその前の廊下で待機した。容態が急変したら知らせてくださいと言って姿を消した担当医はその後なかなか現れず、ひたすら待っていたのだが、その間も、何人もの救急患者が次々と運び込まれ、救急医療の最前線の模様を期せずして垣間見ることになった。最終的に義父が入院病棟に落ち着くのを見届けて私が病院を離れたのは、日付が変わって二時間近くがたってからだった。家に帰ると、ご苦労さま、大変だったね、とパートナーがねぎらってくれたが、救急医療従事者の大変さに比べれば、テレビのコマーシャルの間にトイレに立って戻ってくるより楽なことだったと言わざるを得ない。幸い義父の状態は改善し、現在は療養型の病院でお世話になっていて、パートナーが毎日様子を見に行っている。

 ほかにも、お盆やお彼岸などの行事、老人ホームの撤収作業、各種イベントや同窓会など、なにやかやで8月、9月は営業日が極端に少なかったのだが、それでもたまにお店を開けたときは、お客様が来ないのをいいことに(暑さのせいかお店のある公園に人影を見た記憶がない)、書棚をつくったり、絵本の展示コーナーを工夫したりと、ひたすらDIYにいそしんだ。


ワゴンに新しく書棚を設けた。ここにはおもに文庫のセットものとアンソロジーを置いている。


 書棚の背中には面展示の棚をつけ、平置きとあわせて絵本の展示コーナーにした。


 備品やがらくたをやみくもに突っ込んで雑然としていたワゴンの下は、扉付きの物入れにし、その前面に、立ったまま背表紙が眼に入るよう少し傾がせた小さな書棚をしつらえて本を並べた。


 物入れは反対側からも出し入れできるようにし、こちらには文庫を並べた。

 ほかにも、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を題材にしたミステリーやSF、ファンタジー、コミックなど、アリスもののパスティーシュやパロディ、オマージュ作品を集めたコーナーや、「犬」と「猫」をテーマにした古今東西の文学作品を集めた「犬・猫」の特集コーナーなど、展示もリニューアルしたので、もしお時間があるようなら是非お越しいただければと思う。



ヴィスナー文庫

時間がゆったりと流れる 公園のそばの癒し空間