箱形の本棚を借りて自ら選書した本を売る一箱本棚オーナーが集まって、日替わりで店番をしながら運営する協同運営の古書店が、今、全国に広がりつつある。近年では日本有数の古書の町神田神保町にも複数出現しているらしい。本欄で何度も紹介したように、私の古本活動の原点は、そんな一箱本棚オーナー制発祥の古書店「みつばち古書部」(阿倍野区昭和町)である。下町の商店街にある日替わり店主の小さな古書店から始まった活動が全国に広がりつつあると思うと、みつばち古書部に参加できたことが、何やら誇らしい。私が特段、何かをしたわけではないのだが。
さて、そんな一箱本棚オーナー制度を転用した私設図書館が、最近注目を浴びている。みんなの図書館を約めて「みんとしょ」と呼ぶ。焼津の「さんかく」、豊岡の「だいかい文庫」をはじめ、全国に50館近くある。私の店が入っている建物の1階は、そのうちのひとつ「みんなの図書室 ほんむすび」である。わたしもほんむすびの一箱オーナーとして末席に加えていただいている。各地のみんとしょはそれぞれに特徴的な活動をしていて、地元の地域コミュニティの拠点となっているが、われらがほんむすびの最大の特徴は、看護師や理学療法士、薬剤師、助産師など、医療従事者がお店番に入り、医療相談を随時受け付けているところにある。なかなか改まって専門家に相談しづらいことも、気軽に相談できる。もちろん、壁面を埋めている書棚には本棚オーナーたちの個性的なラインナップが並んでいて、自由に閲覧、貸出ができるし、日によっては併設のドリンクスタンドが営業していて、香り豊かなコーヒーを片手に、こころゆくまで本を楽しめる。
そんなみんとしょのひとつが三島にあると聞いて、今回の伊豆行きの機会にお邪魔した。「あひる図書館」である。楽寿園の南端の通り沿いにある創作料理の店「風土」の2階にある。整然と並んだ書架の片隅には絵本の読み聞かせにぴったりのちょっとした小上がりがあり、貸出カウンターの隣には自由に使えるボードゲームが置いてあるコーナーもある。窓からは楽寿園の森の風景が楽しめ、飲食も自由。有料だが格安で使えるコーヒーメーカーが備えてあり、時分どきになれば1階のレストラン「風土」のおしゃれなお弁当を届けてもらうこともできる。いつまでも居たくなる、じつに素敵な空間だった。私たちが訪問したとき、高校生らしき女子学生が二人、熱心に自習をしていた。勉強に疲れると、おしゃべりしたり、気晴らしにボードゲームに興じたりして、あひる図書館が彼女たちのお気に入りの居場所になっているのがよくわかった。
伊豆行きの際に楽しみな立ち寄り先が、またひとつできた。
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