東京古書散歩

 2月3日節分の日。上品な初老のご夫婦がご来店。とても本好きのおふたりで、古書店巡りがご趣味だとか。本にもお詳しく、お薦めのご本は? とお尋ねすると、八木沢里志『純喫茶トルンカ』をあげて下さった。東京の下町谷中の路地裏にひっそりと佇む古びた喫茶店を舞台に、そこに集う人々の交流や不思議な縁を描いた心温まる物語。人の優しさに溢れた、読後感のさわやかな作品だそうだ。そんな話をしていたら、そういえば東京の有名な古書街神田神保町にも、おいしいコーヒーを飲ませる老舗の喫茶店がたくさんありますね、と盛り上がった。ただ、名店はいつも長蛇の列で、ビルの地下にある「カフェ・トロワバグ」やパンケーキが人気の「茶房 TAM TAM」に入ったことがあるくらいで「さぼうる」や「さぼうる2」は憧れです、と言ったら、「さぼうる」には入ったことがある、とおっしゃるので、思わず根掘り葉掘り。でも、私たちの一番のお気に入りはここなんです、といって教えて下さったのが「ラドリオ」だった。


 2月の半ば頃、久しぶりに東京に行く機会があり、神保町古書巡りのついでに早速「ラドリオ」を訪ねた。小雨模様もあってか、幸い待たずに席に恵まれた。日本で初めてウインナーコーヒーを提供した店だと聞いていたので、迷わずチョイス。ウインナーコーヒーといえば、生クリームが溶けて表面にぎとぎとと油が浮き変な甘さがコーヒーの香りを消してしまって、正直に言うと若い頃に飲んだ記憶はあまり芳しいものではなかったのだが、ここのは全然違った。たっぷりと盛られた生クリームのすっきりとした甘さが絶妙で、フレンチローストの深いコクと上品な苦みのコーヒーとの相性が抜群だった。パートナーと二人ですっかり感激し、翌日はお昼に行ってランチに伝統的なナポリタンを食べた。セットの飲み物はもちろんウインナーコーヒー。古書巡りの楽しみが、ひとつ増えた。


 東京の古書巡りといえば、高田馬場の古書街もなかなか楽しい。JR高田馬場駅からだと少し歩いて明治通りを越えたあたりから個性的な古書店が軒を連ねる。ほとんどのお店でお買い得な均一本のワゴンが出ていて、しかも驚くほど状態が良いのが嬉しい。赤川次郎『やり過ごした殺人』、桐野夏生『緑の毒』はこのときゲットしたもので、なんと税込20円。早稲田通りから少し路地を入ったところにもお店があるので、お時間のあるときにぜひ巡ってみていただきたい。


ヴィスナー文庫

時間がゆったりと流れる 公園のそばの癒し空間