2023.10.28 07:48本の思い出 2 読書空白期 中学時代は、あまり本を読んだ記憶がない。私の文学的素養の欠如は、おそらくこの時期に起因する。私の読書空白期間である。にもかかわらず、後々まで私に妙に強い印象を残した作品に出会ったのもこの頃だった。そのひとつが、ファーレイ・モウワット『犬になりたくなかった犬』。犬らしからぬ異才を次々と発揮する雑種の駄犬マットが引き起こす数々の騒動を中心に、北米の豊かな自然やおおらかな人間模様を描き出した、著者の少年時代の物語である。誇り高いマットは優等生的な名犬、忠犬ではまったくなく、どこまでも自分本位。ハシゴを上り下りし、スカンクと戦い、防塵ゴーグルをつけて自転車に乗る……次々と紹介される奇想天外なエピソードのなかでも、近所の犬たちとのいざこざを避けるため、猫にだっ...
2023.10.16 08:14本の思い出1 読書事始め 「読書の秋」である。本好きの私は、べつに気候、天候にかかわらず本は読むのだが、なぜかこの季節は無性に本について誰かと語り合いたくなる。 私が生まれる前、我が家は阿倍野区の昭和町というところにあって、なかなかの豪邸だったらしい。その頃父は心斎橋でテーラーロベリアという洋服店を営み、ロベリア提供のラジオ番組を持つほど羽振りが良かった。二つ上の姉は、幼い頃周りからジョーと呼ばれていて、何で女の子がジョーなのか長らく不思議だった。後年、それが「お嬢様」の意だと知った。お屋敷にあって、実業家の若奥様だった母を支えたしっかり者の「お手伝いさん」(疾うに死語で、今でいうメイドあるいは家政婦が近いか)は、戦中から戦後にかけて活躍した美男力士第43代横綱吉葉山にそっく...
2023.10.09 08:24ヴィスナー文庫の一周年 いろいろあって「ここだけの話」をすっかりご無沙汰している間に、当店は密かに一周年を迎えていた。酷暑真っ盛りの7月23日のことである。なにか記念のイベントでもやろうかと、パートナーと話し合ったりしていたのだが、結局準備が間に合わず、500円以上お買い上げごとに百円均一商品を一点ずつプレゼントする、というささやかな企画にとどまった。それでも、いつになくお客さまが来てくださって、そこそこの売上げを残せたのは僥倖だった。日記を見ると、一年前のオープンの日はなんと十二名ものお客さまがあって、おまけに東京からお仕事で来阪中の書評家の杉江松恋氏にお立ち寄りいただいたりしたのだった。お客さまの数も、売上げも、この日がいまなお当店の最高記録である。 さて、この間、「こ...