2022.12.20 14:00ネビル・シュート『パイド・パイパー』 第二次世界大戦がまだ膠着状態にあると思われた1940年4月。イギリスの老紳士ジョン・シドニー・ハワードは、戦争で受けた深い悲しみと心の傷を癒やすために、スイスに程近いフランス・ジュラ地方の美しい山村シドートンに保養にやってくる。大好きなフライ・フィッシングを楽しみ、同宿の夫妻の子どもたちとも仲良くなったハワードだったが、戦局は急転、ドイツ軍がベルギー国境を越えフランスに侵攻したことを知る。このままでは帰れなくなる……慌ただしく帰国の準備をするハワードに、同宿の夫妻はある頼み事を持ちかける。夫は国際連盟職員でジュネーブに戻らなければならない。妻はそばにいて夫を支えたいが、子どもたちをここに置いておくわけにはいかない。ついては、幼い子どもたちを安全なイギ...
2022.12.05 04:39ジョゼ・サラマーゴ 『白の闇』 信号待ちをしている車の長い列。信号が青になった。先頭の車が動かない。後続車のドライバーたちが騒ぎ出す。窓ガラスを激しく叩き強引にドアを開けると、運転していた男は半狂乱になって叫んでいた。目が見えない……。失明は次々と人々に感染していく。彼らの目の前に広がるのは漆黒の闇ではなく「ぶあついのっぺりした白い」ミルク色の海だ……。 ”ちょっと気になる本”を紹介する「この一冊」、第1回はポルトガルの作家ジョゼ・サラマーゴの『白の闇』(原題:Ensaio sobre a Cegueira「見えないことの試み」)。レストランで食事中に無意識の淵からサラマーゴの頭に忽然と浮かんだ「もし、われわれが全員失明したらどうなる?」という問いから生まれた作品である。発症者とと...